フランスのデモの深層|都心部の上流階級優遇の教育制度と税金配分、郊外の高校生の絶望

日本のマスコミでは、フランスの暴動の起点となった高校生デモの原因を「教室が雨漏りしている」「教員が足りない」といった表面的な不満としてしか報じません。しかし、彼らの怒りの核心は、単なる校舎の老朽等ではありません。

「自分たちが通う郊外の公立校が意図的に放置され、まともな大学進学と将来の就職の道が制度的に完全に閉ざされていること」に対する絶望と告発です。フランスでまともな大卒キャリアを掴むための「残酷なレール」と、税金配分のカラクリを解き明かします。

一言で簡単に言えば、子供の学力勝負になる前の初期教育の段階で上流階級がエリートコースに乗れる慶○の幼稚園舎の入試のようなことを、税金を突っ込んで国を挙げてやっているわけです。これに庶民階級の高校生が改善を求めてデモを始めた。デモのインタビューをご覧になってお分かりのはずです、真面目にデモをしている高校生は下位層の不良連中ではなく、中位層などの普通の庶民階級の高校生で今のままでは将来に希望が持てない連中です。

一方で、商店などを襲撃している連中は下位層で、将来なんか考えていない連中です。これに極左集団のブラックロックなどが加わり暴動になり、今のインフレに不満を抱いた大人まで参加して暴動が拡大しているという図式です。

それでは、なぜまともな庶民代表の中位層の高校生がデモを始めたのか説明していきます。

1. 有名大学への道は「都心エリート公立」と「名門私立」の2つに限られる

フランス社会で国家を動かす超エリート校「グランゼコール(マクロン大統領らを輩出)」や、一般企業で大卒総合職として働くための最低防衛ラインである「ソルボンヌ大学などの人気難関公立大」に進学できる人間は、高校生全体の上位約1割に限られます。

そして、この「上位1割の席」を掴み取れるのは、実質的に以下の2種類のエリート高校(リセ)の出身者だけです。

  1. パリなど大都市中心部の「名門エリート公立リセ」(ルイ=ル=グラン、アンリ4世など)
  2. 国から潤沢な税金を受け取る「名門契約私立リセ」(サント=ジュヌヴィエーヴ、スタニスラスなど)

地方やパリ郊外なdの一般公立高校に通う生徒は、このエリート進学ルートから構造的に完全に排除されています。

2. 「リセ(高校)」とは何か? 大学進学を分ける3つのコース

フランスの中等・高等教育の仕組みは日本と大きく異なります。中学校(コレージュ:4年間)を終えた後、生徒は高校(リセ:3年間)へと進みますが、ここで決定的な選別が行われます。

高校卒業時に受ける国家資格「バカロレア」は同世代の約8割が取得するため、日本の高校生の約8割(約40万人)が受ける「進研模試」とほぼ同じ母集団です。この物差しで進路構造を整理すると、以下のようになります。

■ フランスの高校(リセ)と大学進学の3層構造

区分高校(リセ)の種別進学先と日本の大学相当(進研模試基準)卒業後のリアル(就職・身分)
超トップ層    
(国家支配層)
マクロン大統領やカルロス・ゴーン
名門私立リセ & 都心エリート公立リセ
※高校内の選抜コース「プレパ(準備学級)」
グランゼコール
= 東京大学・京都大学(偏差値72〜75以上/上位1%)
大統領、閣僚、省庁幹部、CAC40(世界的巨大企業)のCEO・役員ポストを独占
上位難関層
(一般総合職・専門職)
名門私立リセ & 都心公立リセの上位層
※一般公立校からは極めて困難
ソルボンヌ大学などの上位公立大学の人気学部(法学・政治学・医学等)
= 関西学院大学、同志社、MARCH上位(偏差値63〜66/上位7〜10%)
大手・中堅企業の総合職、弁護士、教員、研究者。
※大卒ホワイトカラー就職の最低防衛ライン
中・下位
(一般事務・非正規)
郊外・地方の一般公立リセ
(現在デモで大暴れしている層)
一般公立大学・地方校
= 下位・Fランク大学(進学者の約半数が1年目で落第・中退)
まともな大卒就職がなく、一般事務、飲食・小売の現場職、非正規雇用が中心

グランゼコール(東大・京大級)だけでなく、一般企業のホワイトカラー就職に必要なソルボンヌ大学などの人気枠(関学・MARCH級)すら、名門私立と都心エリート公立が総取りしているのが現実です。もちろん、就職に有利な条件としては、ソルボンヌなどの公立大学の場合、この上の大学院に行く必要もありますが、そこまでのことは割愛しています。

では、なぜこの中位層の高校生が怒ってるのでしょう?日本なら「勉強しなかったお前が悪い」という自己責任になりそうですが、そうとも言えない制度的な仕組みがあり、自分たちは上流階級の犠牲になっていると考えているからです。以下の3、4と5で説明します。

3. フランスの名門私立の驚くべき安さ――「月1〜2万円」で通える税金投入のカラクリ

「名門私立高校」と聞くと、日本人の感覚では「年間100万円以上かかる富裕層の贅沢品」を思い浮かべるはずです。日本でも高校の授業料無償化が進んでいますが、フランスの制度設計とは次元が根本から異なります。

フランスの私立学校の9割以上は「国との契約校」であり、国家から巨額の税金が投入されています。

■ 私立学校への公金投入:日仏比較

比較項目日本の私立中高(授業料無償化環境)フランスの契約私立校(Sous contrat)
法的・財政的性格民間法人が学費を主軸に運営(独立採算型)国の教育省と契約を結んだ「実質的な準公立校」
公金の投入形態私学助成(経常費の約1割)+高校の就学支援金教員の人件費を国が100%全額公務員給与として支給
年間の親の実質負担・中学:年100万〜120万円超(全額自費)
・高校:年30万〜50万円以上(施設費・積立金)
人件費負担がゼロのため、施設費等を含めても全課程で年10万〜20万円程度(月額わずか1万〜2万円)
中高6年間の総額約400万〜550万円以上わずか約60万〜120万円程度(日本の4分の1以下)
浮いた学費の使い道支援金は授業料の相殺に消え、施設改修は自己資金頼み親から集めたわずかな学費を校舎美化、冷暖房完備、独自の代用教員雇用へ全集中

日本で私立に通わせるには数百万〜500万円以上の私費負担が必要ですが、フランスでは国が私立教員の給料を全額税金で丸抱えしているため、上流階級は中高6年間わずか数十万円〜100万円強(月額1万〜2万円程度)という破格の安さで最高峰の教育環境を買い叩いているのです。

その一方で、私立に税金を吸い取られた「庶民の公立学校」、とりわけ郊外の公立校はどうなっているか。校舎の補修は切り捨てられて雨漏りが放置され、エアコンもなく、教師も不足する機能不全が常態化しています。

4. 名門校の指定席と「選考・不動産」の壁――学費が安くても庶民が入れないカラクリ

「授業料が月額1万〜2万円程度なら、一般庶民でも私立に通わせられるのでは?」「パリ都心に住めば名門公立リセに行けるのでは?」と思われるかもしれません。しかし、ここには「親の社会的地位による面接」「超高額なパリ不動産」「調査書の忖度」という幾重もの強固な防壁が張り巡らされています。

  • 庶民を物理的に排除する「パリ都心の法外な家賃」:名門私立やトップ公立リセが集まるパリ5区・6区・7区・16区などは、東京の港区や千代田区を遥かに上回る超高額不動産エリアです。一般的な労働者層や庶民は家賃高騰でとっくにパリ市内から郊外へ追い出されており、最初から同じ土俵に立つことすら許されません。
  • 私立小学校の「親子面接」という階級フィルター:エリート層は公立の荒廃を避け、幼稚園や小学校(エコール・プリメール)から私立一貫校に入れます。月額の授業料自体は税金で安く抑えられていますが、入学時には「親子面接」や「親の職業・推薦状」が厳密にチェックされます。面接官が求める教養や言葉遣い、親のコネクションを持たない一般家庭は、書類と面接の段階で門前払いされます。さらに、高額な給食費や課外活動費(スキー合宿など)が上乗せされるため、実質的に庶民が通い続けることは困難です。
  • 都心エリート公立は「学区内の庶民」すら弾き飛ばす:仮にパリ都心に住んでいたとしても、名門公立リセ(ルイ=ル=グランやアンリ4世など)は一般公立と違って「学区制の例外(選抜校)」です。中学校の成績がオール満点近くなければ入れず、点数が届かない都心の一般生徒は近隣の普通校へ落とされます。さらに富裕層は、ペーパー用アパルトマンの賃貸による「学区ロンダリング」や、特殊外国語(古代ギリシャ語等)を選択する越境入学の裏技を駆使して指定席を独占します。
  • 勉強ができない「金持ちのバカ息子」を救う内申点インフレ:公立校では成績が悪ければ容赦なく「5点」「8点(20点満点)」の落第点がつけられます。しかし私立校では、追加課題や平常点の手厚い加点によって、ペーパーテストができない生徒でも調査書上の評定を「13〜15点(平均以上)」へ無理やり引き上げる組織的な内申点インフレが行われます。所見欄にも「学力不足」とは書かず、「豊かな感性がある」「今後の伸びしろに期待できる」と言い換えて完璧な書類を仕立て上げます。こうして下駄を履かせてもらった富裕層の子どもは、凡庸であってもソルボンヌなどの人気公立枠へ潜り込むか、系列の私立ビジネススクール推薦枠へ迂回し、何食わぬ顔で大卒エリートのキャリアを維持できるのです。
  • 客観的実力を覆す「教師の評価・進路選別バイアス」:私立校の恣意的な加点にとどまらず、公立の現場における教員の評定や推薦すら親の階級に大きく左右されます。ドイツのIGLU調査(国際読解力調査)などの実証研究では、客観的な学力テストのスコアやIQが完全に同一であっても、専門職・大卒家庭の子どもは労働者階層の子どもに比べて教師から大学進学コース(ギムナジウム)への推薦を受ける確率が約2.6〜3倍高いというデータが明確に示されています。フランスでもDEPP(国民教育省評価計画予測局)の追跡調査や社会学研究が示すように、客観的学力が同等でも労働者層の生徒は職業・技術コースへ誘導されやすく、富裕層家庭の子どもが示す振る舞いや言葉遣い(文化資本)を教師が無意識に「資質・知性」と高く査定する構造的バイアスが根を張っています。親の階層と交渉力の差が、公教育の客観的な審判そのものを歪めているのです

5. 教員配分の逆転現象――「困難な郊外校」ほど新人・非正規の実験場になる

予算だけでなく、「教員の質」の格差もまた制度的に固定化されています。

フランスの公立教員は国家公務員であり、毎年の異動先は「勤続年数」「年齢」などを合算したポイント制によって機械的に決定されます。ポイントの高い教員から順に希望する学校を選ぶことができるため、次のような現象が発生します。

  • 都心エリート公立リセ: 高ポイントを積み上げた百戦錬磨のベテラン教員が集結し、質の高い受験・進学指導を提供します。
  • 名門私立リセ: 私立には校長独自の「教員指名・スカウト権」があるため、熱意と実績のある優秀なベテラン教員を自ら厳選して囲い込みます。
  • 郊外・貧困地域の一般公立リセ(デモの現場): 持ち点ゼロに近い採用直後の20代新任教員や、教員免許すら持たない非正規教員(コントラクチュエル)が機械的に送り込まれます。

結果として、「最も手厚い指導を必要とする学力不足の生徒が多い郊外の公立校に新人と非正規が集められ、学習環境の整った私立や都心エリート校にベテラン・優秀教員が集中する」という構造ができあがっています。

郊外校では、学級崩壊や生活指導に苦しんだ新任教員が適応障害やうつ病で次々と倒れて長期病欠に入り、代わりの教員も来ないため自習が数カ月続く――という悪循環が日常茶飯事となり、生徒の内申点と学力をさらに叩き落とす元凶となっています。

6. だから今、郊外の若者たちがパリでデモをしている

郊外の公立高校生が校門をゴミ箱で封鎖し、パリの街頭でデモをしている本当の理由がここにあります。彼らは単に「校舎を綺麗にしてほしい」とデモをしているのではありません。

「自分たちの親が汗水垂らして納めた税金が、都心の上流階級が通う学校に注ぎ込まれ、彼らは格安で手厚い特進指導を受けて高い内申点を買い取っている。たとえ勉強ができないボンボンであっても、学校の調査書工作で救済され、グランゼコールだけでなくソルボンヌのような『一般の大卒就職に必要な大学枠』まで総取りしていく。その一方で、雨漏りする公立校に閉じ込められた自分たちは、授業すらまともに受けられず内申点を落とされ、まともな大卒就職も将来の収入も見込めない吹き溜まりコースへと人生を閉ざされている」

この、国家の税金によって作られた冷酷な「身分固定システム」に対する怒りこそが、若者たちのデモの正体です。かつて教育相に就任したエリート閣僚が、自分の子どもを「公立は教員が来ないから」と名門私立スタニスラス校に通わせていたことが発覚して猛烈な批判を浴びましたが、これは国家中枢がこの不条理な差別構造を知りながら放置しているというより、エリート階級の固定のために制度を作り上げているからです。

この身分や階級の固定化のための学歴システムは、フランスやヨーロッパなどの話だけではありません。実力主義が建前のアメリカのハーバード大学などの名門私立大学でも現在の推薦入学方式になった理由は、1920年代に優秀なユダヤ人の移民の学生数が多くなってきたため、学力テストを廃止してアングロサクソンの富裕層の子供を入れるためでした。「欧米型の入試や学習」の欺瞞―階級固定型の制度」。

客観的な学力テスト(ペーパー入試)を崩し、調査書や面接という主観的な選抜を取り入れた社会がどうなるのか。フランスの荒れる街頭は、私たちにその恐ろしい結末をはっきりと見せつけています。日本の推薦入学がペーパテストより優れた人材を取れるという今の風潮は、このような状況を理解してのことなのか、理解しているから日本でもこのような制度を植え付けようとしているかなのかは疑問です。


おわりに――これは「対岸の火事」なのか? 日本でも爆進中の教育・地域格差

ここまでフランスの過酷な教育格差を見てきましたが、果たしてこれは遠い異国の出来事でしょうか。 日本に目を向けてみても、すでに起きている本質は酷似しています。

東京や阪神間の富裕層エリアに住む親たちが過熱する中学受験に何百万円も投じ、都心の私立中高一貫校へ子どもを囲い込んで東大や京大、一橋や大阪大学、そして早慶を寡占していく。その一方で、地方では各都道府県に1校だけ残る伝統的な公立トップ校からわずかな優秀層が東京へ吸い上げられ、二度と地元には戻らない。そして、取り残された地域や郊外の高校は統廃合と教育予算の削減の中で見捨てられ、低賃金雇用の供給源として固定化されていく――。

教育機会の不公正によって地域が空洞化し、格差が次の世代へと再生産されるメカニズムは、日仏で驚くほど一致しています。煙を上げて荒れるフランスの街頭は、決して対岸の火事ではありません。

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