医学部・情報系人気の陰りと工学部復権の「裏にある現実」

今回は進路指導の現場から理系の学部選びにおける変化について書きます。

難関中高一貫の生徒から公立トップ層まで日々見ていると、ここ最近で生徒たちの進路の選び方が明らかに変わってきました。

少し前まで理系の上位層といえば、

  • 成績最上位=とにかく国公立医学部
  • それに次ぐ人気=情報系

のほぼ二者択一のような状態でした。しかし今、そのどちらにもブレーキがかかり、代わりに昭和・平成の時代に王道だった機械、電気電子、化学・材料といった伝統的な工学部への人気が戻ってきています「医学科の人気は低下してる 受験者数約1割低下?」。

なぜ今、そんな変化が起きているのか考えてみましょう。

医者の家系以外が医学部を敬遠し始めた

かつては成績が最上位なら、目的意識もなく「とりあえず医学部」という風潮が確かにありました。しかし現在、親が医師で病院を継ぐ必要がある生徒を除いて、一般家庭のトップ層が安易に医学部を目指すケースは明らかに減っています。

理由は単純で、勤務医の過酷な労働実態と、背負わされるリスクの大きさが世間に知れ渡ったからです。

20代から30代前半の貴重な時期を当直と激務に忙殺され、割に合わない初期研修の給与水準や「医師の働き方改革」による締め付けなど、昔ほど無条件に高収入で一生安泰な職業ではなくなりました。さらに大きいのは、医療過誤をめぐる訴訟リスクや、些細なミスも許されない重すぎる責任の現実が広く知られるようになったことです。

世間の見方も大きく変わりました。昔は芸能人や女子アナが「一般男性」と結婚するといえば相手は医師が圧倒的でしたが、今では外資系金融やコンサル、ITエリートなどが選ばれるケースが目立ちます。世間一般から見ても「医師=無条件に最上位のステータスと高収入」という神話が崩れ、明らかな地殻変動が起きています。

医師という家柄のプライドがあるわけでもないのに、単なる見栄やかつてのステータス幻想のためだけに、重い訴訟リスクと過酷な労働を背負い込む価値が本当にあるのか。生徒も親もそうした冷めた自問を突きつけられた結果、医学部という看板を捨てて京大・阪大・神戸大などの工学部や理学部へと現実的な舵を切るケースが目立っています。

情報系バブルの一服とAI時代が突きつける現実

もう一つの異変は、情報系学部の過熱感が一気に落ち着いてきたことです。

ほんの数年前までは「これからはIT・AIの時代だから情報系に行けば将来安泰」と誰もが飛びつきました。しかし、米国のIT大手による人員整理のニュースが流れると、今度は一転して「AIがコードを書くからプログラマーは不要になる」と怯え、情報系を敬遠し始めています。

しかし、これも極めて表面的な情報しか見えていません。

不完全なAIが吐き出すコードをチェックし、セキュリティの穴や論理の破綻を見抜いて修正できる本物のプログラマーの需要は、何一つ変わっていません。IT企業が人員削減を進めた本質は、コロナ禍での過剰採用のツケや業績の頭打ちをごまかし、自社の収益不安を隠すための単なるコストカットです。企業が体裁をつくろうための「AIによる効率化」という名目を、高校生や保護者が盲目的に信じ込み、右往左往しているだけなのです。

世間の浅い情報に流されて安易に飛びつき、状況が変われば本質も理解しないまま逃げ出す。この「ブームへの飛びつき」こそが、進路選択で最も危険な罠です。

かつて「これからはバイオの時代だ、21世紀の主力産業になる」と世間が過剰に煽り立て、多くの優秀な理系生がバイオ系学科に飛びついた時代がありました。しかし蓋を開けてみれば、産業自体が国内で十分に育たず、大学院まで出ても専門を活かせる就職先がほとんど存在しないという悲劇を生みました。深い構造や産業の現実を調べもせず、目先のキャッチコピーだけで進路を選んでしまうと、数年後に取り返しのつかない現実を突きつけられることになります。

なぜ今「機械・電気・化学」なのか?

そこで再評価されているのが、昔ながらのものづくりに関わる工学系学科です。

どれだけAIが進化しても、車を走らせ、半導体を製造し、新しい素材を合成し、エネルギーインフラを動かすのはハードウェアです。AIはプログラムを書くことはできても、新しい素材のや薬品の構造を探索できても、実際に実験をして物を作り、工業化まで製図方法のノウハウを詰め、工場のラインを物理的に動かすのは技術者です。

日本はITやソフト分野ではアメリカや中国に後れを取りましたが、素材産業や重工業では世界のトップレベルを守っています。

今の理系高校生のトップ層が選んでいるのは、この日本が強みを持つ分野に他なりません。この分野の優秀な理系の需要は圧倒的に底堅く、景気やブームに左右されない強さがあります。

工学部を選ぶ前に知るべき「勤務地と日常生活」の過酷な現実

ところが、ここで私が受験生と保護者の方に強く問いかけたいことがあります。それは、機械や電気、化学の道に進んだ場合、将来どこで働くことになるのか本当に分かっているのかということです。

情報系であれば都市部やテレワークで働ける職場も多いですが、伝統的な工学部を出て就職する大企業は違います。本社は丸の内、支社は県庁所在地にあっても、工場や研究所は地方都市ですらなく、地方の埋め立て地や沿岸部のコンビナート、都市から隔離された工業団地などです。

そこでの生活環境は極めて無味乾燥です。 劇場や美術館、気の利いたレストランといった文化的な施設は皆無で、休日に出かける場所といえば郊外の巨大なショッピングモールくらいしかありません。会社の中では最先端の研究やものづくりをしていても、一歩外に出れば、一流大学の大学院を出た自分と価値観や教養が釣り合う人間が周囲にほとんどおらず、気の置けない友人付き合いや結婚相手探しにすら深刻な苦労を強いられることになります。

それに、特に男性の皆さんでは恋愛対象の女性がを全く見つけられないという20歳代あるいは30歳代の前半を暗黒で過ごし、その後の結婚生活などの将来にも大きな問題点を生じることになります。なぜなら自分たちの好みや価値観を共有できる女性は大学で東京や大阪などの都会に出てしまって、都会で就職して、もうその地域には残っていないからです。私の企業では、丸の内の本社の連中が合コンで女性違う女性と次々に付き合い、結局その本社の男たちに、まあ悪い言い方をすれば、遊ばれた女性たちが見合い結婚の相手として泣く泣く田舎の研究所の高学歴な男を相手にしてるというような状況がありました。当然、見合い結婚に虚偽反応を示し、結局周囲にも見合う女性はおらず、帝大クラス卒で修士まで行ったエリートの独身率が高かったという事も事実です。

まあ、今なら見合いではなしに、マッチングアプリということになるんでしょうが、構造は同じです。というか、アプリによる女性からのアプローチが簡単になって、一部の好条件の男性に多くの女性が群がるって遊ばれている状況に、その他の男がげんなりしているという状況は当時よりも進んでいると聞きます

私自身、そうした環境と生活に耐えられなくなって誰もが知る大企業の会社の中央研究所を辞め、いま芦屋という文化的な環境に恵まれた街で塾を開いているからこそ、この現実を肌で知っています。私と同じような状況は、日本だけではなく、アメリカでも田舎のテスラやIT産業の工場や研究所でも猛烈に起こっています。

特に文系出身の親御さんは、この現実を全く理解していないケースが目立ちます。 同じ一流メーカーに勤めていても、文系の総合職は都心の本社で働き、都市部の社宅や借り上げマンションで文化的な暮らしを送ることができます。特に芦屋なÐの恵まれた生活を享受している親御さんは全く理解もしておらず、安易に理系を勧めることがほとんどです。しかし、自分たちよりはるかに勉強して旧帝大や難関大の大学院を修めてきた技術系の修士たちが、地方の工場や僻地でどれほど閉塞感に満ちた生活を強いられ、強い不満を抱えているのかを知らないのです「理系選択の盲点「勤務先」/考えてますか?未来の生活」「。

まとめ:流行や企業の看板だけで安易に選ぶな

大学受験の進路選びにおいて最も危険なのは、就職率や偏差値といった表面的なデータだけで決めてしまうことです。

機械や化学の専門性がどれだけ盤石であっても、その先に待っている20代、30代の日常生活そのものが自分にとって耐えられるものなのかどうか。そこまで具体的に想像できているでしょうか。

  • その分野を学んだ先で、具体的にどんな場所に何年間住むことになるのか?
  • 会社の看板ではなく、日々の生活環境や文化的な豊かさを自分が維持できるのか?

安易な工学部回帰に飛びつく前に、親子で一度、そこにある生々しい現実まで深く話し合ってみてください。

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芦屋で500人以上、個別指導20年のベテラン講師が、毎日・全教科、中学生と高校生を指導します。御影高校・神戸高校、関西学院・同志社・神戸大学・大阪大学を目指す特進個別塾です。