半数以上の生徒では高校で努力しても伸びない理由~付属校でよく分かる

学習塾を経営して20年以上、多くの子どもたちを見続けてきましたが、近年特に強く感じている変化があります。それは、当塾に体験授業や入塾相談でやってくる、大学附属校の高校生たちの学校間での学力格差です。

同じ「大学附属の高校生」であっても、関関同立系列の高校生と、産近甲龍系列の高校生を比べたとき、その基礎学力の乖離が以前よりも非常に大きくなっている印象を受けます。

以前であれば、ここまでの開きはありませんでした。しかし現在、産近甲龍附属の高校生の多くは、教科書レベルの基礎問題、それこそ「数学の定期テストに出る最も基本的な問題」さえ、自力で解き進めることが難しくなっています。現状の彼らの学力の状態を見ると、付属校内では上位の外部大学進学コースであっても、その外部大学受験に必要なレベルまで教えられないと判断し、入塾を見送らざるを得ないケースが近年、増えています。

なぜ、高校生になった時点で、これほど明確な学力の断絶が生まれてしまうのか。多くの保護者は「高校に入ってから本人が必死に努力すれば」と考えがちですが、現代の認知心理学や行動遺伝学のデータは異なる事実を示しています。

全体の「半数以上」を占める中堅以下の学力層(偏差値50未満)の生徒は、高校生になってからどれほど努力を重ねても、期待するほど学力が伸びないケースが多いのです。なぜなら、大学受験に必要な「理解型IQ」を発育させるための、中学時代における「脳のインフラ移行」に失敗しているからです。

脳の司令塔が持つ「作業スペース」の仕組み

この学力格差のメカニズムを理解するためには、まず脳科学におけるもっとも重要な概念を知る必要があります。

人間のおでこの裏側には、意思決定や論理的思考を司る「前頭前野(ぜんとうぜんや)」という脳の司令塔があります。この前頭前野には、「情報を一時的に脳内にキープしながら、同時にそれを頭の中でこねくり回して処理する能力」が備わっています。これを、専門用語で「ワーキングメモリ(脳の作業スペース)」と呼びます。

例えば、暗算で 78 – 39 を計算するとき、私たちの脳内では以下のことが同時に行われています。

  1. 「78」と「39」という数字を一時的に頭の中にキープする
  2. 「一の位は引き算できないから、十の位から繰り下げて……」という手順を意識的に処理・実行する

この、「キープする」と「処理する」を同時に行う能力こそがワーキングメモリです。

しかし、この脳の作業スペースの広さには、生物学的に厳し容量制限があります。この限られた作業スペースを、高校生になったときに「何に消費してしまうか」が、伸びる子と伸びない子の決定的な分水嶺となります。

(参考文献)

アラン・バドリー著『ワーキングメモリ:思考と行動の心理学的基盤』、エドワード・スミス他著『認知心理学:心と脳のメカニズム』における前頭前野の実行機能と作業記憶の容量制限に関する知見)

各学習段階で必要なIQの構造と「受験の限界」

人間の知能は、年齢や役割によって主に以下の2つのシステムに分かれています。

  • ① 処理速度/システム1(速い思考)【暗記・処理型IQ】情報を素早く処理したり、覚えたパターンを反射的に当てはめてスピード解決する「脳の瞬発力」。中学・高校受験の多くは、この暗記と処理が主体の学習になります。
  • ② 流動性推論/システム2(遅い思考)【大学受験の理解型IQ】未知の難問や複雑な論理を前に、脳の作業スペース(ワーキングメモリ)をフル活用して、粘り強く仮説と検証を繰り返す「深い思考のスタミナ」。10代後半が発達のピークであり、高度な理解力が求められる大学受験において真に必要とされる能力です。

多くの中学・高校受験の進学塾が鍛えているのは①の「暗記・処理型IQ」です。しかし、これらは「思考をショートカットして目先の正解を出すこと」に終始しやすく、高校以降に要求される「理解型IQ(システム2)」へ自動的に接続するわけではありません。能力の次元そのものが異なるからです「中学・高校受験までのIQ、大学受験のIQ 小学生のトレーニングと努力できる遺伝子で決まる子供の将来」。

(参考文献)

ダニエル・カーネマン著『ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか』における二重過程理論(システム1とシステム2)、およびレイモンド・キャッテルによる知能の二因子モデル(結晶性知能と流動性知能)の定義)

どちらもダラける中学3年間。しかし脳の「インフラ」に起きていた決定的な差

中学・高校受験を終えた生徒たちは、どのレベルの附属校であっても、一様に受験のプレッシャーから解放され、中学3年間をある程度はだらけて過ごします。それなのに、高校生になって「理解型IQ(システム2)」が必要な高度な学習が始まった瞬間、なぜ大きな格差が露呈するのでしょうか。

それは、中学受験の勉強をコンプリートした時点で、基礎処理が「自動化」されていたか、それともただの「丸暗記」だったかという脳のインフラの違いにあります。

偏差値55以上の生徒(関関同立附属など):【認知処理の自動化】

関関同立レベルに合格する生徒は、中学受験期における極めて高負荷な反復訓練を通じて、代数計算や文章読解の基礎処理を、無意識領域で勝手に実行できるレベルにまで自動化させています。

これは、大人が車の運転をするときに、いちいち「キーを回して、アクセルを踏んで、ハンドルを何度傾けて…」と考えずに、無意識に手足が動くのと同じ状態です。この運転操作と同じで、これらの認知は脳に自動化されて記憶されて忘れることはありません。だから私たちは車に乗り慣れていた時期があれば、久しぶりに運転してもすぐに勘を取り戻せます。彼らも同じです。中学進学後にだらけ、高度な解法を一時的に忘れてしまったとしても、この「自動化された処理インフラ」だけは脳に定着したまま失われません。

そのため、高校で高度な学習が始まったとき、彼らは「分数の計算」や「符号の処理」といった基礎処理に、脳の作業スペース(ワーキングメモリ)を消費しません。基礎は脳のバックヤードで勝手に処理されるため、前頭前野の作業スペースは広大な状態を維持しています。だからこそ、普段は大して勉強していなくても、新しく立ち上がった「理解型IQ(システム2)」をその広大な作業スペースでフル駆動させることができます。

半数以下のボリュームゾーン・偏差値50未満の生徒:【手順の丸暗記によるパンク】

一方で、偏差値50未満の地層から滑り込んだ生徒は、中学受験を「意味を理解しない解法パターンの丸暗記」という、付け焼き刃のシステム1で乗り切ってきました。基礎処理が「無意識レベルに自動化」される領域にまで、脳に負荷をかけていないのです。

この状態で中学3年間を適当に過ごし、高校に進学して高度な学習(システム2)を求められた瞬間、彼らの脳内は深刻なパニックを起こします。高校数学などの基礎問題を解こうとした瞬間、彼らは「分数の処理はどうするのか」「このマイナスはどう展開するのか」という、中学レベルの基礎処理を行うためだけに、限られた脳の作業スペース(ワーキングメモリ)の多くを消費せざるを得ません。

「基礎処理の実行(やり方を思い出すこと)」だけで脳の作業スペースが満杯になり、新しい論理を理解するためのスペースが残らない。結果として、新しくできたばかりの理解型IQを動かそうとした瞬間、脳の作業スペースは基礎処理の書類だけで慢性的な飽和状態に陥ってしまいます。教員や講師がどれほど丁寧に教えようとも、それを受け止めるための「脳のスペース」そのものが物理的に残っていないのです。これが、「高校でどれだけ本人が努力しても伸びない」という正体です。

(参考文献:ジョン・スウェラー著『認知負荷理論の展開』におけるコグニティブ・オートメーション(認知の自動化)がスキーマ獲得と作業記憶の負担軽減に果たす役割、およびリチャード・メイヤー著『マルチメディア学習の理論』における認知的過負荷(二重負担)メカニズムの分析)

大学受験において必要となる「努力できる資質」と理解型IQの開花

中学受験や高校受験を一定の成果でクリアした後に、附属校の内部進学ではなく、外部の難関大学受験を目指す場合、必要とされる能力は「理解型IQ(システム2)」へと完全に移行します。もちろんこの能力は、付属校ではない高校から大学受験をする際にも必要です。

そして、ここからの学習においては、本人が生まれ持つ「努力できる資質(自制心・勤勉性)」が、学力の伸びを大きく左右することになります。行動遺伝学の研究においても、こうした自制心や勤勉性といった資質の約半分は、遺伝的な要素に影響を受けていることが示されています「努力できる遺伝子――アメリカの大学の研究を米陸軍士官学校の訓練が証明した」。

大学への内部進学を前提としている附属校の生徒であれば、受験に向けた過度な負担を負う必要がないため、過酷な学習努力を求められる場面は多くありません。

しかし、外部の一般入試に挑み、難関大学を目指すとなれば、状況は全く異なります。当然、付属校以外の高校からも同じです。

理解型IQ(システム2)という高度な論理脳は、単に脳の作業スペースがあるだけで、自然に高いレベルへと引き上げられるわけではありません。難解な論理体系や初見の応用問題に直面したときに、「自分の頭で地道に試行錯誤を繰り返し、粘り強く考え抜く努力のプロセス」を自発的に積み重ねて初めて、その論理的思考力は本来のスペックを発揮し、十分に開花します。

どれほど脳の容量に余裕があっても、この地道な思考プロセスを支える自制心(努力できる資質)が備わっていなければ、高校の抽象的な学習内容に直面した段階で挫折してしまい、持っているポテンシャルを引き出すことができなくなります。この「努力できる資質」がどのように働くかによって、外部受験に臨む生徒たちは以下の3つのグループに分かれていきます。

  • ① 高い適性を持つ層(高い理解型IQ × 最小限の努力): 元々の脳の作業スペース(ワーキングメモリ)が非常に大きく、理解型IQの効率が高いため、必要最小限の努力で京都大学などの最難関国公立大学へ進学する層。
  • ② 最難関への開花層(平均的なIQ × 強い努力の資質): 地道に努力を継続できる強い自制心を備えているため共通テストの多教科の学習負担にも耐えられる。難問に対しても諦めずに思考を巡らせる高負荷な学習を維持できるので、難関大学の二次試験を突破できる。結果として、理解型IQを実戦レベルまで着実に高め、大阪大学や神戸大学などの難関国公立大学への進学を自力で達成する層。
  • ③ 難関私大への合格層(平均的なIQ × それなりの努力の資質): 脳の作業スペースは標準的であるが、努力の度合いが低く共通テストに耐えられない。一方で泥臭く理解を深める努力をそれなりに積み重ねることはできるので、理解型IQを関関同立レベルの外部受験に対応できる段階まで引き上げ、一般入試で合格を勝ち取る層。
  • ④ 伸び悩む層(一般的なIQ × 弱い努力の資質): 中学・高校受験までは暗記と処理(システム1)の力技で対応できたが、難度の高い外部大学受験の壁を前にしたとき、自力で粘り強く考え抜く自制心を維持することが難しい。結果として外部受験での進路確保が厳しくなり、附属の内部進学に専念する層。

(参考文献:ロバート・プラミン著『行動遺伝学:遺伝と環境の相互作用』におけるパーソナリティ(ビッグファイブにおける勤勉性)の遺伝率に関するメタ分析、およびアンジェラ・ダックワース著『GRIT(グリット)やり抜く力』における情熱と粘り強さが認知能力の限界を突破させるメカニズムの解説)

少子化がもたらす構造変化と、これからの進路戦略

それでは、中学・高校の段階で標準的な学力(偏差値50未満)に届かず、「基礎処理の自動化」が十分に完了していない、かつ外部受験で求められる「地道に考え抜く自制心」の維持が難しい生徒たちは、どのような選択をするべきなのでしょうか。ここに、今後の教育市場の動向を見据えた、極めて現実的な進路指導の視点が必要になります。

現在、日本の教育環境では、急速な「少子化」の進行と、一方で中高一貫私立の増加が起こっています。以前であれば中学受験の選択肢に入らなかったような学力層の生徒たちが、現在は定員枠の広がった産近甲龍の附属校へ入学できるケースが増えています。

だから、上で紹介した④伸び悩む層はでも産近甲龍の付属校に入学できるので、このような状況になっているわけです。一方で、これはこの層の生徒たちが付属校以外の学校に行って大学受験をしても産近甲龍の大学には受からないということも意味しているわけです。

この④のレベルの生徒に対して親や周囲が周囲の評判や「高校に入ってから本人が頑張ればいい」という不確実な見通しに基づいて公立高校や普通の中高一貫校に進学した場合、高度化する学習内容に追いつけず、数年後の外部受験において厳しい現実に直面することになりかねません。

中学受験で偏差値50以下の親の選択はただ一つ

だから中学受験の段階で何が何でも甲南高校のような「大学附属校」の合格を確保しておくことが極めて現実的です。大学受験の一般入試では手が届かなくなる可能性が高い大学への進学ルートを、高校受験の段階で確実に押さえておかなければなりません。

子どもの能力的な特性と、今後の教育市場の現実を客観的に見極め、一般受験の厳しい環境を選択するべきか、あるいは附属校という手厚い仕組みの中で確実な進路を確保するべきか。周囲の楽観的な言説や一時的な逆転劇のイメージに流されることなく、学習適性に基づいた冷静で戦略的な進路選択を行うことこそが、親の果たすべき本当の責任であると私たちは確信しています。

(参考文献:おおたとしまさ著『中学受験の正体』における少子化私立中堅校の全入化に伴う学力構造変化の指摘、中室牧子著『「学力」の経済学』における義務教育期の実証データと反復学習の費用対効果検証、および各私立大学高等教育研究センター報告書・大学入試学会紀要に見る高大接続と内部進学生のリメディアル教育現状分析レポート)

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芦屋で500人以上、個別指導20年のベテラン講師が、毎日・全教科、中学生と高校生を指導します。御影高校・神戸高校、関西学院・同志社・神戸大学・大阪大学を目指す特進個別塾です。