ジャック・ウエルチに学ぶ 高校進学に伴う成績逆転の謎
ジャック・ウェルチという有名な経営者をご存知でしょうか?アメリカの巨大企業GEを立て直して中興の祖と言われた名経営者です。彼の経営の特徴は様々あるらしいですが、「 働きアリの理論 」に基づいた人事は有名で、会社勤めのお父さんならご存知だと思います。この理論は進学後に生じる奇妙な成績逆転にも良いヒントになります。
「働きアリの理論」とは
よく働くアリと、普通に働くアリと、サボっているアリの割合は2:6:2で、どんな巣穴でも同じになるという理論です。よく働くアリ2割を間引くと、残りの8割の中の2割がよく働くアリになり、全体としてはまた2:6:2になります。よく働くアリだけを集めても、一部がサボりはじめ、やはり2:6:2になります。サボるアリだけを集めても、一部が働きだし、やはり2:6:2に分かれます。だから、ウェルチは毎年下位評価の社員をクビにし、新しい社員に入れ変えていったのです。もちろん、 2:6:2 というのは、アリが巣穴を維持するための最適な割合です。すべてのアリが全力で働かないといけない構成だと、緊急時に対応出来ないからです。評価の低い社員がクビになるGEでは全員が必死に働きますから、アリよりサボる社員の比率は少ない。下位1割をリストラし、新しい社員を1割入れます。
「働きアリの理論」通り2割の生徒で逆転する上位校と下位校成績
受験など極めて単純なお話です。神戸高校に進めない生徒が御影高校に進みます。でも、卒業時は神戸高校の下位2割の生徒では甲南大学も怪しいですが、御影高校のトップクラスの生徒は阪大でも神戸大でも進みますし、上位2割にいれば関学や同志社に進みます。これと同じ現象は高校受験だけではなく中学受験でもおこります。でも、入学時の学力差が卒業時は逆転されるこの現象の明確な説明を私は聞いたことがありません。センター入試の受験者は50万人以上いますから、毎年十万人以上でこの逆転が起こっています。最終学歴を決める重要な現象が毎年これほど大規模に起こっているのにです。
「働きアリの理論」は学校内では起こらない
この現象を踏まえて高校受験や中学受験をされる保護者の方は、私の経験からは少数です。大学受験など頭からすっ飛んで、あるいは上位校の上位の生徒の素晴らしい進学実積に食いついて、高校受験や中学受験がゴールになっているからです。でも、よく考えて下さい。もう一つの大切な真実は、一旦学校に入ってしまえば学校の中では大規模な成績逆転はおこらないということです。中位の生徒が最上位に、下位の生徒が上位にというような劇的な成績逆転は多くはありません。しかし、学校間では大規模な逆転現象が起きる。 神戸高校の真ん中以下の成績の生徒が、御影高校の真ん中より上成績の生徒に追いつかれる。2割では完全な逆転が起こる。
もちろん、「体育がダメで内申書が・・」とか「併願校を失敗したから」とか「そういう成績逆転の話を知ってるから」とかいう理由で、受験校をワンランク落とすことはあるでしょう。それに、引っ越しなどの都合で本来ならその高校に入らない学力の生徒が編入することもあります。でも、そういう「例外」で生じる学校間の逆転現象は少数です。
逆転現象の理由1:上位校の無里な授業
この大規模な逆転現象について、私が考える理由は3つです。最初の理由は、高校の授業の問題です。多くの高校では上半数の生徒に合わせた授業をして進学実績を伸ばそうとする結果、下半分の生徒が落ちこぼれる。あるいは、最上位の学校では上位の生徒は何を教えても自分で学力を伸ばすので、適当な授業が許される。教師のプライドを満たすだけで生徒の理解など眼中にない授業をする私学のトップ校、教えていない範囲を宿題丸投げする公立のトップ校なんて「普通」ですから。だから進度も速く内容もメチャな授業で落ちこぼれた神戸高校の半数が、ちゃんと説明しないと分からない生徒相手にまじめに授業をしてくれる御影高校の生徒の半数に逆転されるか追いつかれる。
逆転現象の理由2:生徒の適性
もう一つは適正の問題です。中学の学習は暗記が得意な生徒が有利です。数学の学習のときにも書きましたが、中学の学習では問題パターンと解法の暗記で90%は片がつく。でも、高校はバリエーションが増えるため理解のない丸暗記で対応できなくなる。そして、必死の丸暗記でなんとか上位校に入った連中は、成功体験と暗記学習にしがみつき自滅する。そんなに勉強しなくても余裕で下位校に入った生徒でも、高校の理解が必要な学習に適応した生徒が成績を伸ばす。でもまあ、でもこれは主要因と言えるほどのものでもないです。上位校の生徒がやはり一般的には理解力も優れていますから。そういう生徒もちらほらいるという程度のお話です。
逆転現象の理由3:「働きアリの理論」
以上2点は今まで散々書いてきました。最後は、今回お話することです。簡単な理由で、中学時代に必死に勉強して神戸高校に進んだ生徒の全員が、高校ではまじめに勉強するわけではないということです。そこまで頑張らないで御影高校に進んだ生徒の全員が、高校でも適当に勉強するのかと言えば、そうでもないということです。
GEの場合下位評価の社員はクビになるって分かってるんですからみんな頑張ったでしょう。だからGEは1割しかリストラしませんでした。でも、学校の場合はGEよりもっとアリに近い2割がサボります。リストラされるわけでもなく、多くの生徒はどの順位でどの大学に進めるかさえも分かっていないから危機感も薄いんです。多くの生徒が神戸高校に行けば「まあ、神戸大くらいは・・」って漠然と思っているだけで、チャート式も満足に解けないんですから。その結果はアリ社会と同じ 2:6:2 に別れ、2割が最上位の学校に行っても失敗し、6割が「別に下の学校でも大差ない」進学になり、2割だけが「さすがトップ校」に毎年きれいに配分されます。中学生と保護者の目に入るのは上位2割の進学実績だけ。それで下位で入学して、御影高校はもちろん、下手をすれば芦屋高校の生徒に逆転される。もちろん、同様のことが中学受験でもおこります。
失礼な例ですが、神戸高校に行けたかも知れないのに必死に頑張らなかった生徒がリストラされて進む御影高校ではその上位2割が優秀な働きアリに変身し、今度はキリギリスになった神戸高校の下位2割の生徒を追い越す。これは、ウェルチが信奉した「働きアリの理論」そのものなんです。 不気味なことに、最初に書いた通り2割という成績逆転の数字まで辻褄が合っています。アリのように巣を維持する人員構成など関係ないのに、まあ見事に人間様でも当てはまります。
逆転の理由1と3は回避できる
第2のリスクは回避のしようがありません。子供の能力を見極めて、子供を潰さないようにするしかありません。偏差値60手前であがいている子供に「神戸高校に行ったんだから国立大学!全教科頑張れ!」なんて親がメチャを言わないことです。英語の暗記学習だけまじめにしとけば行けた有名私立大学にもいけなくなります。そんな例はいっぱい見てきました。このことについても繰り返し書いています。
第1と第3の確実なリスクは避けたほうが良いというのは500人以上の生徒を個別指導してきてた私の絶対に近い考えです。真ん中より下で進学するのなら、志望校は一つ下げて余裕を持って進学すべきです。中学受験も高校受験も同じです。
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