兵庫県公立高校の希望が過去最低80.2%、高校授業料無償化の意味を考える
「兵庫県内公立高への進学希望、過去最低の80.2% 私学は過去最高に トップは神戸の総合理学2.98倍」という神戸新聞の記事が出たようです。
神戸新聞の報道によると、2027年度入試に向けた9月の進学希望調査で、兵庫県内公立高校への希望率が「80.2%」と過去最低を記録したそうです。一方で、私立高校への希望率は「10.3%」と過去最高。
この記事の論調のように「高校授業料無償化の拡充で、いよいよ公立離れ・私立シフトが本格化した!」と世間や教育系ニュースは大騒ぎしています。
でも実際は80%超が公立高校を希望しています。
確かに、昨年度の高校受験の実際の倍率データを見ても、西の頂点だった「長田高校」がまさかの定員割れ。そして、神東の2番手である「御影高校」に至っては0.79倍という悲惨な数字を叩き出しています。一方で、神戸東部のトップの「神戸高校・総合理学」が相変わらずの超人気を誇っていますし、西の2番手・星陵高校は人気を集めています。
長田や御影の定員割れを見て、「公立の凋落だ」「これからは私立の時代だ」と短絡的に結論づけるのは難しいかも知れません。
実際は「80%超」が公立高校を希望している
ニュースの「過去最低」「私立過去最高」という煽り文句に目を奪われがちですが、「過去最低」と言っても、依然として中3生の80.2%が公立高校を希望しているのです。
「国の就学支援金で所得制限が撤廃され、私立高校では全世帯で年最大約45.7万円が支給されるようになった」にもかかわらず、なぜ9割の生徒が私立に雪崩を打たず、8割以上が公立にとどまっているのか?
理由は極めて単純です。「無償化」と言っても、私立に行けば3年間で150万円以上の余計な出費が出るからです。
就学支援金が補助してくれるのは、あくまで「授業料(上限45.7万円)」だけ。公立と私立の間には、授業料以外の部分で埋めようのない圧倒的な経済格差が存在します。
| 費用項目 | 公立高校(3年間) | 私立高校(3年間・一般的な例) | 差額(私立の超過負担) |
| 授業料(額面) | 約35.6万円(年11.88万円) | 約150万〜180万円(年50万〜60万円) | +約115万〜145万円 |
| 就学支援金(補助額) | ▲約35.6万円(実質0円) | ▲約137.1万円(年45.72万円上限) | ▲約101.5万円 |
| ① 授業料の実質自己負担 | 0円 | 約13万〜43万円 | +約13万〜43万円 |
| ② 入学金(初年度) | 約0.5万円 | 約20万〜30万円 | +約20万〜30万円 |
| ③ 施設設備費・教育充実費 | なし(基本無料) | 約30万〜60万円(年10万〜20万円) | +約30万〜60万円 |
| ④ 修学旅行・研修積立金 | 約10万〜15万円(国内中心) | 約30万〜60万円(海外・滞在型等) | +約20万〜45万円 |
| ⑤ 制服・指定品・ICT端末代 | 約10万〜15万円 | 約25万〜40万円 | +約15万〜25万円 |
| ⑥ 交通費・海外修学旅行 | 約5万〜15万円(地元通学・国内) | 約20万〜50万円(少し遠い・海外) | +約15万〜35万円 |
| 3年間の総実質負担額 | 約25万〜45万円 | 約180万〜290万円 | 【差額】約150万〜250万円超 |
私立の授業料は年間50万〜60万円以上することがザラで、支援金(約45.7万円)を引いても毎年足が出ます。その上、入学金、施設維持費、高い制服代、指定タブレット、海外修学旅行の積立金……授業料以外の負担がかなり大きいことが分かります。
「授業料無償化だからタダ同然で私立に通える」なんて嘘で、実際には最低でも150万円程度の公立高校より余計にかかります。でも、これはモデルケースで、もちろん「ウチの学校は違う」もあります。
そう、公立でいいんです! 同じレベルの公立と私立なら大学進学実績に差はない
150万円以上の差額を払ってまで、高校から私立の進学校に行く価値があるのか?
現場を長年見てきた私の結論はハッキリしています。「ありません。公立でいいんです!」
ここで多くの親御さんの方は決定的な勘違いをしています。「私立高校は公立高校と違って、特別な指導ノウハウで我が子の学力を引き上げてくれるはずだ」という期待です。はっきり言いますが、そんな魔法のような私立高校は存在しません。
高校から入る私立高校のカリキュラムなんて、公立高校とほぼ同じです。数ⅡBは高2で終わり、理系の数Ⅲや理科の専門科目は高3まで残ります。授業内容など、教科書もチャートも競争下であらゆる業者が知恵を絞っても同じような内容にしかならないのです。学校の教師が個人で「私だけにある素晴らしい授業」など生み出せると思いますか?少なくとも私は、私はそのような授業をしている教師など知りません。塾や予備校なども同じでしょう?「あの予備校に行けば魔法のように理解できて成績が上がるカリキュラム」があるのなら、生徒が殺到しているはずです。しかし、そんな塾も予備校もありません。学校なら猶更です。神戸高校と須磨学園、それ程進学実績の差はありますか?「公立高校と中高一貫の私立の難易度と大学進学の比較」
塾や予備校では、学校と差があるのは授業進度の速さだけです。教える内容は同じです。しかし、この先取り学習で多少の有利は他の生徒に対して生むことができますが、所詮は生徒の資質と努力次第です。なぜなら、先取り学習をしておけば、入試までに余裕が生まれるからです。しかし、この方法も学力に余裕があり、しかも計画的に頑張れる生徒でないと学校と予備校の二重の進度の学習で負担になるだけです。
最近ヒューリックという不動産会社が買収した東大御用達の超有名予備校は、こういう先取り学習で実績を上げました。しかし、ベネッセに買収されて規模を拡大して、生徒のレベルを下げた結果多量の落ちこぼれを生む状態になっています。「鉄緑会の売却の真相を考える~ベネッセとヒューリックの思惑」。
これをもっと極端にやっているのが中高一貫の進学私立です。「中学受験で中高一貫校に入り、中3で高校数学を始め、高2で数Ⅲまで終わらせて高3の1年間を受験演習に充てる」というアドバンテージがあるからこそ、一貫校の理系進学実績は高いのです。
ところが、高校から私立に入ったところで、スタートラインは公立と全く同じ。理系のカリキュラムが高3ギリギリまで残る不利さも公立と何も変わりません。しかも、文系なら公立でも高2で授業がほぼ終わるので、中高一貫の私立でさえ公立も大差ありません。
いや推薦入学で有利でしょ?という方へ
そういう方は実際に私立高校が持っている指定校推薦の枠を高校に聞かれたことはあるのでしょうか?
私が知る限り阪神間で特別に大きな指定校推薦の枠を関関同立やもちろん、早稲田や慶応などといった有名大学に持っている私立高校はないと思いますよ。関関同立では各大学に3~4名でしょう。早稲田や慶應に至っては、最近では指定校推薦枠を持っている高校はほとんどないと思います。指定校推薦で入学してきた大学生は一般受験で入学してきた学生よりも学力は低く、各大学は指定校推薦の枠を以前よりも狭めているからです。
このように、ほとんどの私立高校では公立高校と大差はありません。
私が知ってる限り、大口の指定校推薦の枠を持っている学校は阪神間では一校しかありません。しかし、その高校は小学校から、あるいは中学から入る中高一貫校の高校です。そして、この高校が超有名大学に大口の指定校推薦の枠を持っている理由は、学力面の理由ではなく、学校設立の基本理念であるキリスト教の会派の親和性によるものです。
でも、私立は7時間授業もあるし・・という方へ
「私立は7時限授業や土曜授業があるから手厚い!」と喜ぶ親御さんもいますが、あれはハッキリ言って「うちは面倒見がいいですよ」とアピールするための学校の営業・宣伝活動にすぎません。
上に書いたように、同レベルの高校であれば、6時間授業主体の公立高校でも、7時間授業主体の私立高校でも進学実績に大差はありません。高校の授業内容は難しいので、無理に授業を詰め込んでも消化不良を起こすだけです。それより、自分の自由になる時間が多く、マイペースで予習復習できる方が良いと私は思っています。
だから、中高一貫校では簡単な中学の学習は3年分を2年間以下に圧縮はしますが、高校の学習の圧縮はしません。そんなことをすれば消化不良を起こすからです。高校から7時間授業を始めて公立よりも早く授業を進めて中高一貫校に追いつくなど無理です「土曜・7時限目授業の私立の方が公立より有利なのか?中学受験と高校授業料無償化を考える」。
大事なのは授業時間ではなく、「自分の頭で解き直して理解を定着させる自学自習の時間」です。詰め込み私立に入って課題に追われ、復習の時間が取れずに落ちこぼれていく生徒を、私はこれまで山ほど見てきました。
進学校の実績の99%は「生徒集めのビジネス」で決まる
「でも、実際に須磨学園などは進学実績を伸ばしているじゃないか」と反論されるかもしれません。
種明かしをすれば、進学校の実績を支えているのは「素晴らしい神授業」ではなく、「特待生制度(授業料免除や優遇)で公立トップ校レベルの秀才をタダでかき集めるビジネスモデル」です。
中学で学年トップを走るような、本来なら神戸や長田に上位合格する生徒を授業料全額免除で引っ張ってくる。彼らが勝手に努力して東大や京大、国公立医学部に受かり、華々しい合格実績の看板を作る。すると、その実績に釣られて「普通の生徒」が有償で集まってくる――このサイクルが上手く回っているだけです。実績を作っているのは教師の指導力ではなく、もともと持っていた生徒本人の能力です「スイミングスクールと学習塾や進学校は同じビジネス手法です」。
これは学校だけでなく、トップ層が集まる某大手予備校でも全く同じ構図です。バイト講師が早口でテキストを消化し、画一的な採点しかできなくても、もともと飛び抜けて頭の良い灘や神戸女学院の生徒が集まっているから「東大・国公立医学部多数合格!」という実績が出る。
「あそこの学校・予備校に行けば阪大に行ける」なんて指導はどこにもありません。すべてはお子さん自身の地頭と努力次第です「私立高校は公立高校より有利なのか?高校無償化の影響を考える」。
高校から私立に行く唯一の現実的メリット:関学などの「大学付属校」
では、高校から私立に行くメリットは本当にゼロなのか?
制服や校舎の綺麗さ、進路面談の多少の丁寧さ(これも学校によりますが)を除けば、進学校枠で私立へ行く実質的なメリットはほぼありません。
唯一、明確な実利があると言えるのは「大学付属校(関西学院高等部など)」に進むケースだけです。
今の公立中学は中学受験で優秀な生徒が抜けた残りの生徒に甘々の絶対評価で通知簿がインフレしており、「オール5」の生徒でも昔の「通知簿4」レベルの学力しか持っていないことが珍しくありません。そんな状態でギリギリ私立の進学高校にに滑り込んでも、校内順位で下位に沈めば、大学受験では関関同立どころか産近甲龍すら危うくなります(神戸高校で現役で関学に受かるのは上位2〜3割から半分程度です)。
だから、「進学校でホドホドの成績なら高校受験の段階で関学付属を確実に押さえておく」というのは、将来の大学受験リスクを避ける意味で極めて合理的な判断です。しかし、わざわざ進学校の私立に入って「公立と同じカリキュラム・同じ受験勉強」を詰め込みでやらされるのは、親が思っているほどの恩恵はありません「公立高校の定員減/付属校に進学して丸儲けしよう!」。
まとめ:看板や宣伝文句に150万円を払うな
今回の進学希望調査で長田や御影が定員割れを起こしたのを見て、「公立はもうダメだ、これからは私立だ」と焦る必要は微塵もありません。
- 「無償化」と言っても、私立は3年間で150万〜250万円の余計な実質負担がかかる
- 高校から入る私立は、公立と進度も内容も変わらない
- 7時限授業や土曜講習は「消化不良」と「自習不足」を招くだけ
- 進学実績の正体は「優秀な特待生を集める仕組み」であって魔法の授業ではない
高校受験で私立を選ぶなら、「関学などの付属校で大学受験をパスする」という明確な目的がある場合だけ。それ以外の大学受験を目指す進学校選びなら、余計な150万円を払わず、公立高校に通って自分の勉強時間をしっかり確保する方がよほど合理的です。
世間の「無償化フィーバー」や学校の耳触りのいい宣伝文句に踊らされず、冷徹に現実を見つめて進路を選んでほしいと思います「「高校無料化で私立が人気です/でも本当に私立と公立に差があるんでしょうか?/早生まれの子供には公立で浪人をお勧めします」。


