ノーベル賞学者が指摘する親の認知のバグ だから受験と学校選びは失敗する
自動車や電化製品なんか買うときはカタログを穴をあくほど見るのに、いちばん大切な子育てや、より大金をつぎ込む株式投資、家購入は、噂話に振り回されて裏も取らずリスクも考えない方が多い。
社会で働く優秀な親御さんなら、会社ではデータを見て「このプロジェクトは勝率が低いから損切りしよう」「この部下はだらしなくて注意しても無駄だから査定を下げよう」と、冷徹で合理的な判断ができるはずです。それなのに、なぜ我が子の受験や学校選びになった瞬間、その知性をすべてゴミ箱に捨てて狂ってしまうのでしょうか。
ノーベル賞学者が明かす、親の脳の「3つの致命的なバグ」
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの有名な著書『ファスト&スロー』を読めば、その原因が脳の物理的なバグであることがよく分かります。
カーネマンによると、人間の脳には2つの思考モードがあります。
- 「システム1(ファスト思考)」:直感的、感情的、本能的な脳のモード
- 「システム2(スロー思考)」:論理的、客観的、合理的な脳のモード
親御さんが会社で仕事をしているときは、訓練された「システム2(論理)」が働いています。だからだらしない部下を冷徹に査定できる。しかし、我が子のことになった瞬間、脳は強制的に「システム1(本能・感情)」に切り変わってしまいます。我が子は自分の遺伝子のコピーであり、自己愛の投影だからです。
そして、切り替えが起きたとき、親の脳内では「3つの致命的なバグ」が同時に暴走し始めます。
バグ①:「システム2の怠慢(Laziness of System 2)」
脳はエネルギーを消費する論理的な計算(システム2)を嫌うサボり癖があります。子どもを目の前にして感情(システム1)が暴走した時、本来なら会社のようにデータ(進学実績)や本人の業務姿勢(学習に対する性根)を冷静に分析すべき「システム2」が、思考を完全に放棄し、システム1の出した「ウチの子なら大丈夫」という都合の良い直感をそのままスルーして承認してしまいます。
バグ②:「WYSIATI(ウィジアティ)」
*What You See Is All There Is(見えているものがすべてである)*の略で、脳が手元にある都合のいい情報だけで100%の物語を勝手に作り上げる欠陥です。親の頭の中には、「神戸高校に受かった!」という目の前の輝かしい事実(見えているもの)しかありません。その裏にある「下位7割は関関同立や産近甲龍になる」という、調べていない不都合なデータは、脳内に存在しないものとして完全に無視(盲目)されます。だから、データを調べて実際のファクトを自分に突きつけて「どうしよう」と考えることがなくなります。
バグ③:「感情ヒューリスティクス(Affect Heuristic)」
人間は、頭を使う「難しい質問」を突きつけられたとき、無意識のうちに「感情的な簡単な質問」にすり替えて回答してしまう手抜きバグです。 塾が「このデータを見て、本当に上の高校に下位で入れて上位まで追い抜けると思いますか?(難しい質問)」と聞いているのに、親の脳内では勝手に「子供には可能永がある。できるんじゃないか?(簡単な質問)」にすり替わってしまう。だから、お母さんは「でも、やはり希望というものが……」と、論理の通じない答えを返してしまうのです。
この3つのバグに支配されるからこそ、親は学校や受験の「データ」が全く読み取れなくなり、100%失敗する学校選びへ突っ走るのです。
認知のバグに支配された親が、データを見誤る現実
親が志望する中学・高校に夢見ている大学進学のレベルが現実に即していないのは、まさにこの脳のバグのせいです。
阪神間ではトップレベルの公立高校である神戸高校や長田高校、そしてそれに匹敵する進学実績を持つ六甲や海星という進学校に親が夢見ている大学進学レベルと、実際の進学レベルには大きな乖離があります。多くの親は神戸高校や長田高校などの公立のトップ校に合格すると、当然子供は神戸大学ぐらいには進んでくれるだろうという思いが強い。高校や中学の入学時から関関同立で充分だと考える親はほとんどいません。だって、その付属校に行けたのに蹴ってきているわけですから。(これはその次のレベルの御影高校などでも同じで、産近甲龍の付属を蹴ったのだから、当然関関同立ぐらい行ってくれると思っています)
実際の大学進学実績はどうなっているのか
ところが、これらの学校の実際の大学進学実績は、親が夢見るもの(WYSIATIによる幻想)と大きく異なります。 公立高校最上位の神戸高校そしてそれに類する私立の中高一貫校では、およそ上位2 ~3割で神戸大学です。真ん中少し上のレベルでやっと関関同立です。真ん中より下だと産近甲龍ということになりかねません。こんな現実を中学高校入学時に親は想像しているでしょうか?
ということは、どの中学・高校でも7~8割の生徒では入学時の期待は裏切られるということになります。この現実(データ)を認識せず、感情に振り回されている親子が大学受験を失敗するわけです。
ここまで暴走しているのが、バグ②「WYSIATI(見えているものがすべて)」です。 親の脳は「神戸高校合格!」という目の前の輝かしい1コマ(見えているもの)だけに飛びつき、その裏にある「下位7〜8割は神大に行けない」という、調べればすぐに分かる不都合なデータ(見えていないもの)を脳内から完全に抹殺しているのです。これによって、我が子の未来に都合のいい幻想だけを抱くようになります。
「中下位で入っても追い抜けばいい」という理屈が難しい理由
こういうことを書くと「決めつけるな。中下位で入学しても頑張って上位まで追い抜けばいい。」という反論が返ってきまが、それは難しいかも知れません。
同じ学校の上位と下位では、追いつくというレベルが不可能なほど学力差が開きます。この学力差はもともとの能力の差も大きいですし、それと同時に「努力できる差(辛慢強さの遺伝的資質)」も大きい。同じ神戸高校に入る生徒でも中学校で1番、2番で特別に優秀だった生徒と、何とか入る生徒では自分たちの能力の差は子供自体が一番分かっています。教えていても別物だとすぐ分かります。「努力できる遺伝子/グローバル化・中流没落が生む選民思想」「子育て論の本質/結局は遺伝子」
分かっていないのは、「神戸高校!」というブランドに舞い上がって脳の論理回路(システム2)がバグっている親の方だけです。だから無理をして上の高校に入れて子供を潰すのです。
「じゃあ、なぜ下のレベルの学校に上位で入らない? 下の高校でもトップは神戸大学だし、上位なら関関同立。上の学校に下位で入って、最初から可能性を狭めるのは賢い選択じゃないでしょう?」とは塾ではアドバイスするのですが、多くは聞く耳を持ちまん。有名校のブランドばかり欲しがる親が大半です。インスタ映えの動画を見て借金をしてブランド物を買うのと似ている。これが失敗の第一の要因です。
ここで起きているのが、バグ①「システム2の怠慢」です。 会社であれば「勝率の低いプロジェクトからは撤退(損切り)する」という冷徹な計算ができるはずなのに、我が子のことになると脳がエネルギーを使うのを嫌がります。塾長から「下位で入ったら可能性を狭める」という不都合な現実(データ)を突きつけられても、親の論理脳(システム2)はまともに働こうとせず、思考を完全に放棄して「ウチの子なら奇跡を起こして追い抜くはず」という都合のいい直感をそのまま丸呑みにしてしまうのです。
思春期に訪れる「子供の本性」の予測ミス
もう一つの理由は、努力の格差に関するものです。自分の子供が思春期や反抗期に成長した際、まじめに学習に取り組むのかという予測を間違う親が多いということです。
本来は怠け者でも、まだ思春期に到達していない子供の場合は親や塾が厳しく指導をするとそれに従う子供は多いです。けれど思春期や反抗期になると親や塾の言うことなど聞かなくなります。子供の本来の性分が丸出しになって成績が落ちていく子供が一定割合でいます。
ミドリゼミでも「お宅のお子さん、上昇意欲があって自分から頑張るタイプじゃないですよね? 高校になると本性丸出しになりますよ。関関同立行けると思いますか?」と進路を決める際などにお尋ねすることもあります。親の方もそんな子供には気づいていても、脳が盲目モードになっているため、「今のうちから関関同立の付属校に行った方がいい」ということにはならないのです。
塾でデータを出されて頭(システム2)では理解はできるし、子供の性根も分かってはいるが、気持ち(システム1)は納得できない。大多数の親御さんもこれになります。それが子供を失敗に導く第2の原因です。
この、母親の「でも希望が…」という言葉こそ、バグ③「感情ヒューリスティクス」の決定的な証拠です。 私は「この客観的なデータと本人の性根を見て、本当に上位を追い抜けると思いますか?」という『頭を使う難しい質問』を投げかけています。しかし、お母さんの脳は、我が子への愛着ゆえに、無意識のうちに「私は我が子を愛しているか?(=愛しているから、希望を捨てたくない)」という『感情的な簡単な質問』にすり替えて回答してしまっているのです。データで論理的に話しているのに、親の側は最初から「感情論」の別次元で会話をしているため、どれだけデータを並べても納得できないのです。
脳がバグった親は、教育業界の「格好の餌食」になる
学習塾では「可能性を信じよう」などというきれいごとを言って親子を引き付けるビジネスが主体です。私のように辛辣なことを言っている塾はありますか?そんなことを言う学校もないでしょう。反感を持った親からつるし上げを食らうようなことを、様々な人を相手のビジネスをする大きな組織が言うはずがない。そして、そんなきれいごとでビジネスが成り立っているのも、気に入らない辛辣な話に逆ギレするのも、親の脳が「システム1(感情・盲目)」で暴走し、正常な査定ができなくなっているからです。教育業界はそこを狙って、親をいくらでも「食い物」にできるのです。
少子化でお子さんが 1 人か 2 人しかいないご家庭では、子育て初心者のままあれよあれよという間に子育てが終了してしまいます。上の子供の受験が終わったと思ったら、その受験の結末を見定める間もなく下の子供の受験が始まります。慌てふためいて目が回っている(システム2が働いていない)初心者の手をひねるぐらい、プロの業者にとっては簡単なことです。特に学習業界の評論家から塾学校までは、親の「システム1」が喜ぶ「子供を信じて・・」という甘い言葉を使い、同時に親の「システム1」が最も恐怖すること「経済格差が学力格差、教育への投資こそ・・・」という脅しを煽っていればいいのですから、たやすいことです。
愛情は冷静な判断の上に!希望や願望の受験はもってのほか
進学というのは客観的な判断が重要です。「自分の子供だ」「子供の将来はこういうふうに夢見ているのよ!」という主観的な感情(システム1)は一度置いておいて、会社の部下を査定するような冷徹な気持ち(システム2)で進学は客観的に判断しないと、確実に失敗します。
子供の将来のために、現実に即してどう納得していくのかも親の愛情です。その親の愛情が願望という主観になって、盲目的に間違ったところで使う方が多い。
客観性を超えて親の希望や願望という主観(システム1)が前面に出た受験は、子供を潰し、子供の将来を台無しにします。行けた大学にも行けず、就職できた会社にも就職できないことになる。
中学・高校受験後の生徒を20年以上教えてきた塾からの、これが偽らざる忠告です。


