理系選択の盲点「勤務先」／考えてますか？未来の生活

理系流行の昨今

最近は理系ばやりです。理由は、いくつかの企業が専門家を高給で引き抜く報道が後を絶たないからです。特にAIや統計関係の専門家です。しかし、時流の流行もあり、お子さんがいっぱしの専門家となる１０数年後、その分野が金の成る木で、しかも人手不足の状況にあるかは分かりません。

それに、特に文系のお父さん方が理解しておられないのが、理系社員の勤務先です。最近はネット関係のプログラマーなんかが渋谷などの勤務先で若さと人生を謳歌しているようなイメージが作られていますが、ソフトエンジニアなどではない本当の理系はどうでしょうか？

理系の勤務先とは　私の場合

勤務先は研究所や工場など広大な敷地が必要な事業所で、多くは郊外でもない「ド田舎」にあります。私がかつて勤務していた研究所も、ほぼ国立大学の帝大・悪くても一期校クラスの院卒７００人が、最寄り駅が無人駅の広大な事業所で働いていました。

研究所の中には、社宅、独身寮、体育館、飲み屋（会社経営）、グラウンド、それに銀行のATMまで備え付けられ、きれいに整備された事業所は公園のようでした。ところが、この一山まるごと研究所の敷地から一歩外に出ると、見渡す限り畑と林。住居もまばらで街灯もなく夜には墨を流したような暗黒でジョギングさえできません。夜中に車を走らせていると、ヒキガエルを数匹轢く時期もあります。名物は野生化した孔雀でしたよ・・・。目の前に大きな鳥が出てきて、あの目玉だらけの羽を突然広げるんです・・私初めて見た時には驚愕しましたよ。

もちろん、会社で嫌なことがあっても、街に少し出て気晴らしをして帰るなど到底不可能です。最寄りの都市に出ようとすれば、研究所から２番目に近い駅まで車で３０分、タクシー代で８０００円ほど。バスはありません。そこから電車で４５分。それで、やっと三宮程度の規模の都市に出られます（もちろん、神戸ほど洗練されていません。）。電車も日中や休日は１時間に２本ほど。夜１０時を越えるとありません。

それに、研究所勤務ですから転勤もありません。みんな一生ここで朽ち果てていくのです。高収入で高学歴は全員、中にはイケメンもいっぱいいる中、３５歳以上独身者のたまり場、彼女を作るすべもなく、結婚＝見合いです。だって、田舎ではまともな女の子は都会に出ていきますから。

私は、何のために頑張ってきたのか分からなくなって会社を辞めました。阪神間で、大学・院・博士課程と９年過ごした身には耐えられなかったんです。転職先を探しても、少しはましですが、似たような筑波くらいしかありません。

人生を台無しにされた田舎暮らし

で、その研究所が数年前、私が辞めてかなり経ったころ大リストラを始めたんです。多くの社員は、その田舎にローン付きで家を買っています。自主退職か工場の交代勤務かどちらかを選べと言われたんですよ・・旧帝大の院卒が。そして、ローンまみれの田舎の家は、辞めるにしても転勤するにしても、売れないし借りてくれる人もいません。若いころは田舎で我慢し、恋愛もせずに見合い結婚し、挙句の果ては会社にいいように振り回されて、プライドはズタズタにされて、借金まみれで放り出される・・・私の知る数百人の超エリートの理系の人生です。

・・・あ、因みに、このリストラを先導した本社は、東京丸の内の一等地、窓から皇居が見えます。本社の社宅は世田谷の瀟洒なマンション風です。でも社宅費はド田舎の築２０年の社宅とほとんど同じです。

多くの理系はこんな環境で働いている・・人も多い

私の知り合いも、同じような環境で勤めている人間が多数います。一番ひどいのは、日本最大のゼネコンでダム部門に回された知人です。ダムは田舎でなく、秘境にあります。家族は秘境に一番近い小さな町で暮らし、本人は田舎町から自動車を１時間近く運転して秘境に通います。子供の進学どころの騒ぎではありません。

文系では転勤もあるでしょうが、地方勤務とはいっても多くは県庁所在地で、ここまで酷くはありません。特に、芦屋や阪神間のぜいたくな暮らしに慣れている方にとっては、想像を絶する環境で生活することになり、私のように負けて帰ってくることにもなりかねません。

それに、最近では国内だけではなく、中国やアジアの田舎の工場に派遣されます。おそらく、私でさえ想像を絶する生活が待っているはずです。日本の最大手の重工業メーカーでは「勤務地はアジア。一生向こうで勤務。」が就職の条件のところもあります。その地域に派遣され、その地域の言語をしゃべり、その地域の専門家となった従業員は、その地域の業務からは外せないんです。

理系流行だけで選ぶな

今の理系流行に乗っている方は、そこまで考えてお子さんに薦めていらっしゃるのでしょうか？

私は「理系に行きたい」という子供に、この話をします。一流大学は出て、一流企業に勤めても、私のように人生に絶望して途中で人生を間違えて欲しくないからです。

文系にしたって・・・エリート商社マンの憂鬱

文系ではアジアの海外勤務と言っても、まだ都市部です。アジアの都市部は急成長していますし、高給の日本人なら、日本では贅沢過ぎる楽しみもあるかもしれません。

でも、私の塾の教え子は、一流国立大学に進み、希望通り日本最大の商社に就職しましたが・・そこからイスラム圏の中東に派遣され、そこで一生を終えるみたいです。・・・・アラビア語が堪能になり、あの地域独特の社会を熟知した社員の勤務先は中東しかないんですよ。今一番人気の商社勤務が、パリやニューヨーク勤務だと思うなよ！　商社の最大の商いは資源です。資源は砂漠の中と最貧国の山奥にあります。

私の知り合いの商社マンは、大昔にフィリピン勤務で、娘さんが急病になって現地の病院は当時まだダメダメで、急いで日本に連れて帰ってきましたが手遅れで亡くなりました・・・そんなこと考えたこともないでしょうねぇ。

そこまで考えての商社人気なんですかね？